大地から水を吸うために、根を張りバームクーヘンの木が育っていた。
最初はまっすぐ育って、年輪は均等だったのに、いつからか料理人達は年輪が片寄り始めたことに気付かず、中心の水の通り道はそのままに、太い方ばかりを太くしていった。
今、このバームクーヘンの木の幹は大変いびつな形に積み上げられている。
まだ風が穏やかだったり、強く吹いても急所にこないので立ってはいるが。
もともとこの木は天までまっすぐ伸びるはずのものだった。
芸術であるなら、片寄りがあったほうが私は好きだが、これはただの芸術じゃなく、「命の木」なんだ。
いつかその急所のごとく薄くなっている箇所が、折れやすくなる切り込みのような作用になれば、この木はそこからバキッと折れて倒れる。
そう、ある時、この強い風が吹けば、急所を分岐点みたいにして折れる。
それに蟻がたかる前に、風となった皆で分けて食べよう。
この世は全て循環している。
太いところを太くして補強したつもりでも、急所は急所だよ。
料理人はわかってない。あんたが補強するのはそこじゃないんだよ。
折れたバームクーヘンは料理人にはあげない。
もう散々作りながら食べてきたろう。
そのぶくぶくになった体と心にもうこれはいらない。
せいぜいその急所をつく風が来ないことを、補強に補強を重ねながら祈るといい。