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娘と一緒に私の実家へ遊びに行った時の話だ。

電車を利用して改札を出て、エスカレーターを下りて行く時、ふっと上りエスカレーターの方を見た。

すれ違いざま瞬間的に「あ、この人知っている!」って思った。女の人。

知っているけど、友達ではない。そしてすぐ、ああ、あの人だ!って思い出したんだ。

そして、あれ?って思った。何か違和感があった。何故か。

それは、いつも一緒にいらした、お母様がいなかったこと。

私がその方を見る時は必ずお母様が一緒だった。最後に会ったのはもう15年前くらいになるだろうか。

当時でもかなりお年を召した感じのお母様だったので、もしかしたら病気になったかもしれないし、亡くなったのかもしれないと頭をよぎった。

そうしたら、なんだか急に胸がじんとして、景色が涙で滲んで見えた。

あたたかい優しい小柄なあの方のお母様、私は忘れない。お母さん、って書かないのは、なんだか雰囲気がお母様って言いたくなるような方だったから。

あの頃、私は実家の近くの飲食店でアルバイトをしていた。もちろんまだ子供もおらず、若者中の若者だった頃の話だ。

その飲食店にその母娘は2ヶ月に1度くらいかな、たまにいらっしゃっては、お気に入りのメニューを必ず同じように頼み、綺麗に食べて帰っていかれた。

たくさんの人が訪れる中で何故その母娘が印象的だったかというと、おそらくその娘さんには何かの障害があり、お母様が常に付き添っている、そういう感じがしていたからだ。

娘さんと言っても歳は私より上かなと当時は思っていた。穏やかそうな恥ずかしそうな笑顔で静かな娘さんと、優しそうな物腰の柔らかい、動作も話し方もゆっくりとしたお母様。

お会計の時に優しい笑顔でごちそうさまでした、と言って、娘さんに寄り添うようにして帰っていく姿が印象的だった。

その店に来る時はいつもすいている時間だったので覚えていたのもあるかもしれない。

たまにしか来店されなかったが、そのたまに来てくれるのが嬉しかった。

ある時、私がレジでお会計をしていた時、そのお母様のジャケットにブローチがつけてあって、素敵だなと思ったので、生意気だがふわっと褒めたことがある。お似合いで素敵です、と伝えた時のお母様の笑顔が忘れられない。

エスカレーターですれ違って、下りて、娘の手を握り、10歩も歩かない内にその当時のことをひたすら思い出していた。

もしかしたら、ご病気とか亡くなったとかではないかもしれない。私の思い違いならいいなと思う。でもやっぱり当時既にかなりご高齢であったことと、常に娘さんの横にいらしたことが記憶にあり、この15年の間、どんなことがあったのだろうと思いを巡らす。

私もあの頃は若かったな。そしてこの15年色々あったな。

私が母になって思うのは、あのお母様は本当に立派な方だった、と。

一瞬のすれ違い、これも何かのご縁なのだろうと思った。

娘さんとお母様の幸せを心から祈っている。